呼吸が身体の健康状態と密接な関係があることは良く知られている事実です。
健康な人は深くて長い呼吸をしますが、病人は荒くて短い呼吸をします。
呼吸は心の動きとも関係しています。感情が荒立てば呼吸も激しくなりますし、逆に呼吸が乱れると心が不安になります。
呼吸は身体や心の状態と一体となっています。呼吸の調整により心身のコントロールができることは確かです。
調息法の原則は「細・長・深・均」で表わすことができます。
この原則の上で、陽火を練成する煉丹の過程では「武火による武火鍛錬」と「文火温養」という調息法や逆呼吸法も利用します。
ヨガや気功では、精神を宇宙なるものに高めていくために、思考を制御し深化させていくだけではなく、肉体的な性能力や内臓の生命力を利用する点で一致しています。
人間の精神や宇宙の本質というものが、肉体とは異なるものであるという心身分離の二元論は存在しないのです。
肉体も精神も、普遍的な宇宙エネルギーが異なる現れ方をしているにすぎません。
元来は一つのものであります。
気功法の生命エネルギー変容プロセスは三段階があります。
練成化気 下丹田(下腹部)において、精を生命エネルギーである気に変容する。
練気化神 中丹田(胸中央内部)において、気を精神エネルギーである神に変容する。
練神還虚 上丹田(眉間奥部)において、神をもって宇宙の本源へと回帰する。
これらの三段階の象徴的プロセスは、ヨガのチャクラの開発の過程にきわめてよく似ています。
ヨガにおける呼吸法の特徴は、横隔膜から肺全体の動きが重視されることです。
気功法や日本の呼吸術のように、腹式呼吸を重視し、胸はゆるませ、内に含み、気を丹田に沈めることによって、下腹部を動かしていくこととは正反対にも思えます。
呼吸法ではありませんが、ヴィディアーナバンダやナウリといった内臓の引き上げや腹部のマッサージ運動が基本訓練として重視されています。
この訓練法も胸をはり腹部可能な限り引き締めることが重要であり、丹田呼吸のように、下腹部をゆるませふくらませることが目的ではないのです。
ヨガの呼吸法の基本は完全呼吸法です。
吐気の時は、上腹部、肺底、中肺、上肺とゆるませつつすぼませていきます。
吸気の時は、上腹部、肺底、中肺、上肺と順にふくらませていき、肺全体に十分息を入れます。
臍下丹田に陽気をためるには、腹部をマッサージし内臓を浄化する方法である「ナウリ」を呼吸法と併用するのが効果的です。
小周天で気を循環させるには身体の歪を修正しておかなければいけません。
歪のない身体は柔軟性がありますから、柔軟体操とストレッチが、特に重要な要素となります。
日本の呼吸術の特徴は、下腹部丹田に強力な腹圧をかける腹式呼吸が重視されています。
腹式呼吸による腹力増進、丹力養成が万病を駆逐し、超常的な力を得るための基本です。
岡田式、藤田式、肥田式等呼吸法の鍛錬を専門とした健康術も普及されました。
これらに共通するところは、腹を練ることであり、臍下丹田に気を込めるところにあります。
丹田呼吸といわれる逆腹式呼吸です。
この呼吸法は、呼気で下肺からみぞおちを膨らませます。
吐気ではみぞおちを窪ませ徐々に下腹に気圧をかけ前に膨らませていく方法です。
気功における意守丹田は、日本式の丹田呼吸法とは違い、腹部をゆるめ、意を下丹田におくことにより、自然に下腹部は充実し腹力も養成されてくるというのです。
丹田呼吸とは意識的な鼻による呼吸ではなく丹田を意守することにより下腹部に気が集中し丹田自体による自発的な呼吸(自動的な動き)が発生するというのです。
生命エネルギーを高めるという同じ気の技法でありながら、ヨガ・気功における呼吸法における微妙な差や共通点が見られるのは興味深いことです。